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雪の結晶やサンタクロースが点滅する景色はただの光の点滅に過ぎず、まだ残る葉っぱを邪気にして巻きつく黒いコードを目は辿る。
『今日、49日の法要を終えました。お呼びすべきか迷いましたが、父の遺言には貴女の名前は無かったので……』
視界の端でスマホを操作する匠の親指が忙しない。
「そ、ですか……」
もしかして。今日の匠からの強引な誘いは、心配性でお節介な夫婦からの差し金なんじゃないかと疑ってしまう。
『携帯電話には貴女からの着信やメールが残っていたので、生前親しくされていたのならご挨拶ぐらいはと思いまして』
ゾワリゾワリと収縮した毛細血管に無理矢理血液が巡る違和感。
『遺品の整理やらで年内はこちらで過ごすつもりでいます。柳澤さんのご都合に合わせますから、一度お会いして頂けませんか?』
肩から滑り落ちて底を見せて転がるバッグとその中身をかき集めてくれる匠が私の様子を窺う。
「私……ですか?」
冷えたアスファルトに座り込んで膝の上で手帳を開いた。
「私なら、いつでも大丈夫です」
耳を突くような無意味に高い声はきっと辺りに筒抜けている。
「では、また後日に。……はい」
タップして空に向かって吐き出した息は白く一瞬で跡形もなく消えた。
「典子……」
私の側に片膝ついた匠の顔は険しく、言いかけた言葉を飲み込んだ。
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