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「何から話せばいいのかしら」
初対面の人間を前にして伏し目になる感じが、この人にも立河昌勝の血が流れているんだと彼女の一挙手一投足に目敏くなる私。
テーブルの下で指を硬く組み直した手は、ハンドクリームの効果か薄く汗ばんでいた。
「父の遺品の多くは既に処分されてあって、残っていたのは身の回りの物がほとんどでした」
計算なのか、愛美さんはあぁそうだったとバッグの中を漁り封筒をテーブルに置いた。
「こちらをどうぞ」
ズイっと封筒をこちらに滑らせて、私の反応を覗き込む。
「では….」
封筒へと伸ばした指先。
「遺言と言っても、決められた形式のきちんとしたものではなくて……。不動産や株の売却だとか自分の葬儀のことだとか。….身内は私一人ですから、後々私が困らないようにとの配慮だと思います」
だから貴女の名前が無かったんですと話す声を聞きながら、封筒の中身の写真に眼を見張り、息が詰まる。
「葬儀の後にお話できるかなと考えていたんですが、こちらは時間に追われていて…柳澤さんもあの状態ではキツイだろうということで……」
相槌も打たず手元を見つめている私に淡々と話を続ける。
「父は遺影の写真も決めていました。それを、私の勝手で……使われていない部屋の奥から見つけた、そちらに変えました」
顔を上げた先に、瞳を潤ませてすみませんと掠れた声を聞いた。
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