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封筒の中には写真が十数枚。中にはブレていたりピントの合っていないものもある。
「父は、一人娘の私に甘く優しかったけれど、こんな表情は見たことがありませんでした。
二人が一緒に写っているのを見て、思い出したんです。父と暮らし始めた時に、内緒で覗いた手帳に挟んであったプリクラのこと。
……あれも、柳澤さんですよね?」
この時の私が今の自分を想像できたなら、こんな満たされた笑顔なんてしない。
「はい」
戻りたくても戻れない時間を振り返る余裕もなく、顔ばかりが熱くて風呂上がりみたいに逆上せそうだった。
「当時から父とは……付き合っていたんですか?」
数秒答えに迷ったあと、反則だと思いながら椅子から腰を上げて愛美さんを見下ろした。
「すみません、おかわり買って来ます」
財布片手に小走りでカウンターへ並んで、ビジューのついたエンジのツインニットの袖を捲り上げた。
とにかく、冷静にならなきゃいけないと、冷たくて甘いものを選んでブルーのライトの下で手際よいサービスを笑顔で受け取る。
散らばる写真の隣に置いたフラペチーノに目を見張る愛美さんに、貴女に主導権は握らせない、とジャブを打ち込んだつもりだった。
「まだ、私には気持ちの整理がつかなくて……。全てをお話しする気にはならないんです」
若い私と昌さんが頭を寄せ合って幸せな笑顔を浮かべる一枚に目をやって背筋を伸ばした。
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