855人が本棚に入れています
本棚に追加
/452ページ
きっと、昌さんだって同じことを考えるはず。
私たちの想い出は、今は私だけのもの。
写真を見つけられても携帯電話を覗かれても、昌さんの全ては覗けない。
ホイップクリームに突き刺したストローをグルグルと回して吸い込めば、想像通りの甘ったるいさが口に広がる。
「柳澤さん……」
血色のいい肌とダークブラウンの髪は艶光りして、スラリとした体型の彼女は水色のモヘアのセーターがよく似合っていた。
「私が結婚する少し前に、父から再婚してもいいかと尋ねられたことがあります」
ストローの先に付いたグロスを指先で拭いながら、どうしたって彼女の繰り出す攻撃をまともに喰らっている自分の立場の弱さに背中は丸くなってくる。
「私と暮らし始めてからは父親としての責任や義務を果たそうと一生懸命で、私が結婚することで役割を全うしたと考えていたと思います」
瞳の強さが彼女が今日私を呼び出した本題に入ったことを物語る。
「その後すぐに、会社の健康診断で癌が見つかって、私も結婚どころじゃなくなってしまいましたけど……」
目尻をスッと指先で拭うと、バッグから次は黒地の手帳を取り出した。
「どこをどう探しても他のは見つかりませんでした。これは病室にあったものです。
私が…柳澤さんと話がしたいと思ったのは、これを貴女に渡さなきゃ……と」
手帳は私へと向かってくる。
喉から手が出てしまう反面、私が見ていいものなのか迷う。
最初のコメントを投稿しよう!