855人が本棚に入れています
本棚に追加
/452ページ
ーーーー愛美さんから手渡された手帳には
昌さんの苦悩と葛藤が綴られていた。
それは、一言二言のこともあれば、黒く塗り潰された箇所もある。
愛美さんが困らないように、身辺整理を始めていく様子
進んでいく自分の病状を受け入れられない葛藤と諦め
何も知らない私と過ごした日々
死を覚悟した言葉と生を望む言葉
残していく愛美さんに宛てたであろう想いと、サヨナラすら言えていない私に宛てたであろう言葉。
綴られている文字が、言葉が……
昌さんに会いたくて会いたくて、
抱きしめて、謝りたい
愛されることばかり望んだ私は
昌さんの想いの欠片も気づいていなかった。
苦しみも不安も……
私は、昌さんに寄り添えていなかった
「おい、ふざけてんのかよ?
何で喪服だけしかない?今着ている以外の洋服はどこにいった?」
トン。と肩を突かれて、私は壁に背中をつけてその場に崩れ落ちた。
「あの娘と、会った?
何されたんだよ……言えよ!!」
問い詰めてくる迫力に身体を強張らせて全身を左右に振った。舌打ちして狭い部屋を見渡す眼が鋭くなって匠の影が私から離れていく。
「アッ!!それはダメ!やめてぇぇ」
私の身体が反応するよりも早くに匠の手が黒の手帳に届いた。
「返して!!返してよ!」
蛍光灯の下で天井に向けて腕を伸ばす匠に、私はどんな手を使っても届かない。
最初のコメントを投稿しよう!