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見ないで……と涙で懇願する私を足元にうずくまらせ、匠はパラ、パラパラと乾いた音を立てて手帳を捲る。
「今更、こんなモン押し付けて……何だよ、これ…偽善者にでもなったつもりかよ!!」
床に叩きつけられた音に身体を縮めて、跳ねた手帳を両手で胸に抱える私に更なる苛立ちを浴びせた。
穏やかな印象の匠が際限ない怒りを露わにする姿が怖くて、フローリングの木目だけを見つめて身体を丸めて怒りが過ぎ去るのを待つ。
「典子、立河さんに会いたくなった?」
床にうずくまる私の隣で、同じように身体を丸める匠の眼が鋭い。
覗き込むその顔は見たこともないくらい無表情で、カタカタ、カタカタと自分の身体が小刻みに震えてしまう。
「目、閉じてごらんよ」
やけに静かに、穏やかに話をする匠が私の知らない人に見える。
だけど、有無を言わさない眼の奥に身体を起こしてしまった。
大きな手の平に目元を覆われて
頬を掠めたのは、匠の気配。
「ゆっくり、ゆっくり深呼吸して」
耳元で囁かれて、背中に温かさを感じる。
「そう、上手……リラックスして」
真っ暗な視界の中で深呼吸を繰り返すと、匠に対しての恐怖感も次第に薄れていく。
「ゆっくり、ゆっくりだよ……
深呼吸を続けて……ノンコ……」
昌さんの声に聞こえて
心臓に強い衝撃を与えられて、背中から抱きしめられた。
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