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目を開けた世界は、現実。
汗の粒を流して、ネクタイを緩めただけの匠と
腰まで捲りあげたスカートの中をさらけ出す私。
薄ら寒い私の部屋に、昌さんはいない。
「帰ってよ」
痺れて力の入らない手を伸ばして、剥いだ下着を掴んでスカートを下ろす。
「……一人にして、お願い」
フローリングに私の影が落ちる。
手帳に縋る馬鹿な女だと、見限ってくれて構わない。
【6.30ーーあれが早くノンコと別れてくれたらいい】
【7.6ーー河合から連絡が来た。ノンコに会える。】
【7.21ーー別れたと言ったのに。俺よりもノンコを思う気持ちの強さが憎い】
【8.16ーーこのまま死んだら、ノンコはどうするだろう。
死ねない。死にたくない】
【9.27ーーノンコが見舞いに来た。いいんだ。これでいい。生きているうちにもう一度会えて良かった】
昌さんの手帳の文字が、昌さんの声になって頭に響く。
「帰ってよ、早く……」
私は、また許されないことをしようとしていたの。
「明日、仕事は……」
「行くわよ!!行くから、もう私のことは放っておいてよ」
匠、ごめん…
でもね……これ以上優しくしないで。
【ノンコは俺を忘れて、河合を選ぶかな】
私、昌さんを忘れたりしないから。
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