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青く澄んだ空にはひつじ雲が広がりはじめる。 今年も暑い夏が過ぎて、季節は静かに冬へと向かう。 「典子さぁん、送迎の時間ですよ」 「はぁい。今行きます」 白いライトバンの後部座席には手を添えられて女性達が乗り込む。 「今日はお疲れ様でした。 金田さん、松平さん、佐藤さん、志村さんの順でお送りしていきますね。途中で体調が悪くなったら、気兼ねなく仰って下さいね」 私は笑顔でライトバンのスライドドアを閉めてから助手席に乗った。 「では出発します」 中古の一軒家をリフォームしてデイケアサービスをしている〈和み〉で働き始めて半年が過ぎた。 門扉の前で手を振る職員に手を振り返して車は発進していく。 3年前、昌さんを喪って昌さんの手帳から彼の最後の姿を知った私の心は壊れていたんだと思う。 貴重品の類いも持たず、身一つで家のインターフォンを鳴らした娘を見た両親は絶句していたけれど、すぐに暖かく迎えてくれた。 仕事を辞めてマンションも引き払った。暫くは心療内科にも通い、短期間のアルバイトを経験しながらお年寄りの方のショートステイのお手伝いをしている。 「典子さんはいい人がいらっしゃるの?」 後部座席からの質問にも笑って答えられるようになった。
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