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先月から週二回、デイケアサービスを受けている佐藤さんは明るいお婆ちゃん。
「あらぁ、ウチの孫のお嫁さんに来てくれたらいいのにぃ」
佐藤さんが〈和み〉を利用するきっかけは、旦那さんに先立たれて部屋にこもりがちなのを心配したお孫さんからの勧めだと言っていた。
「えぇぇ?!お孫さんは素敵な彼女がいらっしゃいますよ」
「あらぁ、典子さんも素敵よぉ」
いろんな苦難や苦労をしても、人は生きているーーと心の底から冷静になれたのはここの人たちと接するおかげでもある。
静かに繰り返す季節は傷を癒やし、過去を振り返る時間を与えてくれた。
世代を超えて触れ合う人の優しさに触れて、私は私を取り戻してきている。
「優しいのよ、ウチの孫」
後部座席へと振り返ると、佐藤さんは、 うふふと恋する乙女のように首を傾けて笑っていた。
「金田さん、もうすぐお家に到着しますよ」
首に掛けたネームホルダーに巻きつけてある時計を確認して、世間話に夢中になっている後部座席に声を掛ける。
今日の担当の送迎ルートは以前の職場の店舗の近辺。このまま土手を走れば、桜並木とカナメモチの生け垣があるはず。
懐かしさが胸を熱くして、助手席側の窓へと身体を寄せた。
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