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その週の金曜日、10人の定員の施設に倍以上の申し込みがあって、急遽近隣の施設にも数人ずつ振り分けて慌ただしく1日が始まった。 「おはようございます、佐藤さん」 インターフォンを鳴らすと佐藤さんは一人で出てきた。 「典子さん、おはようございます」 いつも通りに後部座席に乗り込んだ後は、次々に乗ってくる利用者同士が仲良く話をしていた。 11月下旬だというのにコートも要らないくらい気温が高い日で車内は何もしていなくても汗ばむ。 和やかな雰囲気の中でリハビリやマッサージをしながら、そろそろ昼食の支度をしなければと考えていたときだった。 「ーーーー佐藤さん!! ぇええ?!佐藤さん!しっかりして!!」 悲鳴にも聞こえるその声に振り返ると、佐藤さんはぐったりとしてフローリングに横たえていた。 「典子さん、救急車呼んで。それからご家族の方にも連絡して」 所長の冷静な声で、誰も動けない空気すら止まったその場から弾け飛んだ。 「は、はい!!」 今朝、元気に挨拶をしたのに…… 勢いよく返事をしたけれど、足腰が立たなくて戸棚まで這いつくばった。利用者名簿を捲る指に力が入ってこない。 「…あ、もしもし?私、デイサービスセンターの和みの柳澤と申します…」 近づいてくるサイレンの音に息を吸い込んだ。
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