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刺すような鋭い眼差しには怒りをも感じてスッと息を吸い込んだ。
「あ、あの……佐藤さ、」
「検査入院とはいえ今日の面会は遠慮して下さい」
私の知っている匠とかけ離れている、その低い声と他人行儀な口調に視線は下がってしまう。
「申し訳ありません。迷惑だとは思いましたが心配で…」
いつまでも以前のように甘えてしまうのはよくないと、一歩下がって頭を下げた。
「明後日には退院しますからご心配なく」
その声を聞いて目を上げると匠の着ているスーツのチャコールグレーが一歩二歩と目の前を通り過ぎていく。
「……はい」
私の小さな返事は自動ドアの開く音にかき消され、そっとその先へと目をやると自動ドアを跨ぐ手前で匠が振り返ったところだった。
「柳澤さん、ちょっと話せますか?」
「え?…はい、大丈夫です」
駆け寄って右隣に並ぶと、チャラと音をさせシャツの袖から腕時計を覗かせた彼に目を奪われながら病院の外へと出た。
「この時間だし、久しぶりに飯を食いながらでも構いませんか?」
「はい、大丈夫です…」
それ以降私たちに会話はなく、少し前を歩く匠に着いて病院の裏手にある駐車場へと向かうと、ロックが解除された車はあの頃とは違っていた。
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