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「俺が高校3年の時にね、親父がリストラされて大学受験を諦めたんだ」 突然の告白に目を見開いて運転席へと顔を向けた。シャツの首元を緩めてコキコキと首を鳴らす横顔に深刻さは見えない。 「母親は朝からパートで、俺も塾を辞めてバイトの掛け持ちを始めたんだ。今、店舗勤めなんだけど、そこが昔のバイト先。 あり得なくない?ウチの人事部は大丈夫かよ」 クク、と笑って話す匠に何と相槌を打つべきかわからない。 「あの頃は荒れたくても母親が可哀想でグレることもできなくてさぁ。 やりたいことも無いし何やっていいかもわかんない時に立河さんが棚卸しに来た。……しかも、キラキラした若い子連れて」 真剣に話に耳を傾けている私を匠は面白がるように歯を見せた。 「白い肌は見るからにスベスベで、大きな目はクルクル回っててさ。何でか唇濡れてて、マジで可愛かったぁ…。 あ、今もそれほど大きな崩れはないよ?」 運転の合間に、目を大きくさせて肩を上げた。 「はぁ?!ソレ私なの?」 シートから背中を浮かせ上半身を捻る私に、とうとう我慢出来なくなって大きな声で笑い始めた。 「あの時、俺がいたことなんて知らなかっただろ?典子の眼は立河さんしか映ってなかったもんな」 ひとしきり笑った後のトーンを落とした匠の声が胸に刺さる。
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