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車は最近市内でも店舗の数を増やしている大衆食堂のチェーン店の駐車場に入った。
「晩飯は大抵ここなんだ」
鯖の味噌煮と書かれた旗が何本も並んで夜の風に揺らめく。慣れた感じで車を停める匠には、多分特定の人がいないんだろう。
話はうやむやになったまま、私たち白い暖簾をくぐり自動ドアを抜けた。
明るく広い店内は、大衆食堂のイメージそのままに壁にメニューが掲げられている。
匠の動作を真似てお盆を手に一列に並ぶと、学食みたいに並べられている皿を自分が取っていく。
メニューや店内をぐるっと見渡してから、レジカウンターで精算を済ませて窓際の4人掛けのテーブルに着いた。
「いただきます」
一瞬目を閉じて頭を下げ、手を合わせてから箸を持つ仕草は昔と変わっていない。
食事を前にして匠と向かい合うことが久しぶりだなと恥ずかしさを噛み締めた。
「こういうの、実は凄い久しぶり?」
「うん、まぁ…」
実家暮らしをしているせいで外食する機会は減ったし、今の職場では食事に誘われることもなかった。
「跡形もなく消えていったから、知らない誰かと結婚しているんだと勝手な推測してたよ」
「え、私が?」
「他に誰がいるんだよ。
……探したよ。使える人脈は全て使ったし、飯も食わせたり酒も奢った」
サラッとした口調の匠は、左手に茶碗を持ち鯖の味噌煮の身をほぐす。
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