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咀嚼しながら皿の上の鯖をほぐしていく匠を見つめた。
「…自分の中でケジメとして、確証が欲しかっただけ。ストーカーじゃないよ?幸せになってるならそれでいいと思ってた」
思いもよらなかった言葉を聞いて動きを止めている私に目をやり、食べたら?と促す。
「こっちに異動になって、久しぶりに地元をウロウロしてる時に偶然見かけたんだ。
塞ぎがちだった婆ちゃんに〈和み〉を勧めたのにやましい気持ちは無いよ」
大きな口を開けて白米を放り込むと、膨らんだ頬を動かしながらニコリと笑う。私も一つ頷いて風呂吹き大根に箸をつけた。
「じゃあ佐藤さんは、私たちのことは……」
「知らないに決まってるだろ!幾ら何でも身内にそんなの言えるわけ無い」
「ですよねぇー」
互いに口には出せない何かを読み取ろうとするけれど確信に触れることはせず、それぞれに皿へと視線を落として暫くは静かに食事することに集中した。
「そういえばさ、」
と言う声に顔を上げたら匠は既に食べ終えていて、横にある椅子の背もたれの上に左肘を乗せていた。
「仕事中にあの時計してないのは何となくわかるんだけど、終わってもしなくなったの?」
「時計……?」
咄嗟に匠の左手首に目がいく。彼が今しているのは国産ブランドのもの。
一方私は今日も宝飾の類を一切身につけていない。仕事柄と言うのはいいわけにならないくらいだ。
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