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「昌さんは、いない。
それはちゃんと理解出来てる。
追いかけていた背中はなくなっても私は生きていかなきゃいけないでしょ?
…だって、…置いて行かれたんだから」
今でも体調によっては、当時を思い出すだけで泣いてしまう日があるのに、さも平気です風に昌さんのことを話してしまえる自分に内心は驚いていた。
「何だよ、その言い方。
立ち直れてんだか、どうなのかが解らない」
にこやかに話す私に苛立っているのか匠は唇を尖らせ、食べ終えてたトレイを持って席を立つ。
「そうね。私もわからない」
返却口に向かう匠の後を追う私を半分だけ振り返って、私からトレイを取り上げた。
「あの手帳、まだ持ってる?」
「それがね、引っ越しを任せてしまったせいで行方不明なの。どこを探しても出てこないわ」
返却口から見える白衣の人に「ご馳走様」と声をかけて自動ドアを抜けた。
「それでいいんじゃない?あんなのいつまでも大事に持ってられたんじゃ……俺なら、恥ずかしくて安らかに眠ってられないよ」
匠の意見に一理あると頷いて、短い電子音と点滅した車へと向かって歩く私の肘が遠慮がちに掴まれた。
「なぁ典子…。折角だから今日ハッキリさせてもいいかな?」
振り返りざまに見上げた先には、意思を固めた表情が私を見下ろしていた。
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