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左折するはずの交差点を直進した車。
「典子をあんなに追い詰めたのは俺だけど。典子の幸せを望んでるんだ……。
屈託無く笑っていてほしい」
それだけを言うと匠は口を噤む。小さく息をついて、助手席の窓ガラスに映る自分と目を合わせた。
私の幸せを望んでる、かぁ……
つくづく、幸せって何だろうと思う。
今まで幸せだと思うことは幾つもあった。
でも、私のそれは長続きするものではなかった。
ふと、揚げ足を取るみたいに意地悪く浮かんだ言葉。
ちらりとハンドルを握る手に目をやり、口に出すか出さまいかで、再び胸打つ鼓動の強さが増してくる。
交差点を直進した車は賑やかな光から遠ざかり、ひと気のないオフィスや店舗の並ぶ地域へと進んでいく。
「匠は本気で……私の幸せを望んでるの?
じゃあ……その、
た、匠が望んでる、幸せを……私に、してみせてよ」
私の震える声に、車は急ブレーキを掛けて停まった。
「本気かよ………」
目を見開く匠は信じられないように呟いた。
「今更、匠以上に自分のことを理解してくれる人なんて見つけられっこないじゃない」
昌さんはあの日、私と出逢えたことを幸せだと言ってくれた。
昌さんはーーーーキラキラとしたオレンジ色の空の下で、私の思うように生きて行けって言ったの。
「私、もう一人は嫌なの……」
それは、シンプルな気持ちだった。
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