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右側から伸びてきた手は私の後頭部を包んで、胸元へと抱き寄せた。 「本気で、俺の思うことを典子にしていいの?もう二度と離さないよ?」 覗き込んでくる瞳には瞬きで返事をして、近づく唇には自ら顎を上げて受け止めた。 「匠こそ、私でいいの?」 「いいも何も、代わりになる人なんて見つからなかった…。俺は典子がいい」 その言葉だけで私は十分幸せを感じて、身体から力が抜けていく。 「俺、絶対に典子を置いて死なない。約束する」 額に落ちた軽いキスと突然の宣言に思わず吹き出した。 「今度、立河さんの墓参りに行こうか。 中川さんに聞けば場所ぐらいわかるだろ? あの人に二人で生きていくことを報告しよう」 運転席側へと引き寄せていた腕の力を抜いてからルームミラーを覗く匠はゆっくりと車を発進させた。 「…いいの?」 アームレストに身体を寄せたまま見上げる横顔は優しく微笑んでくれる。 「あぁ。あの人との約束も果たしたから… 俺たちの幸せのための区切りだよ」 昌さんを愛した日々も見えない未来に苦しんだ日々も、匠と一緒にいれば懐かしい思い出の一つになっていくような気持ちになる。 この先の未来がどんな形でもいい。 貴方となら、どんな困難も二人で越えていける。 「ありがとう、匠」 絡めた指は固く繋ぎかえされた。 fin.
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