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午後1時を過ぎた私鉄の駅に電車を待つ人の数はまばらで、夏の気配を感じる日差しの眩さに顔を背けた。
『電車が参ります。白線の内側までお下がりください』
ホームに響くアナウンス、電車が近づく音に髪をかきあげる。
匠と結婚して7年が過ぎた。
子供は男の子が1人。今春に幼稚園に通い始めたのを機に私は電車で2駅先の大型スーパーでパートを始めた。
乗り込んだ車両はがらんとしていて、開けられている窓からの日差しを遮るものはない。
日焼け止めを塗っていないことを悔やみながら座席の端に座った。
『扉が閉まります。ご注意ください』
電車の揺れと窓からの風が心地良く、カサついた手の中に感じる日差しの温かさをそっと握ると自然と瞼を閉じた。
一日数時間のパートを甘く見ていた私は、家事や育児との両立に身体は疲労困ぱい。
急かされるように動いて行く「今日」と言う日はアッという間で、過ぎていった日々の輝きを懐かしむ時間は与えられない。
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