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ガタンガタン、ガタンガタン、ガタンガタン
電車の揺れに身を預けてスライドショーのように断片的な画像が浮かんでは消えていくのは、私の恋の記憶の欠けらたち。
帰り道に時間を忘れて沈むまで見届けた夕焼けの色、並んで歩く石畳みと柔らかな日差しに舞う桜の花びら。
あと少しだけ…あともぅ少しだけ…
記憶の中に浸る。
ふと、お揃いにした茶碗の模様を思い出して、新婚の真似事だったな、と口元が緩んでくるのを堪えた。
『次は**駅、**駅。お忘れ物のないようにお降りください』
最寄り駅の名前を告げるアナウンスを聞いて、目を開けた先の視界は現実の世界。
膝に乗せていたバッグの中でスマホを操作して時間を見てから席を離れて開くドアの前に立つ。
このまま幼稚園にお迎えに行ってから夕御飯の買い物に行って、匠は残業せずに帰ると言っていたから…
冷蔵庫の中身を思い出しながら帰宅してからの段取りを考えはじめていた。
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