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今夜も浮かぶ月は細く薄い三日月。
簡単に折れてしまう危うさと手に届かない儚さが思い出す笑顔を眩しくさせる。
晩御飯の片付けと明日の朝の準備に追われている私に、匠と宗の楽しそうな声が浴室から漏れ響く。
昌さんはーーーー
現在(いま)の私を想って、あの頃の私を縛らなかったんじゃないの?
ハンバーグの油とスポンジのあわが混ざり合うシンクの下から顔を上げた。
昌さんはお洒落でスマートで若い女性の理想を絵に描いたような男性だった。
その反面、自分の弱さや脆さを上手く隠して一定の距離からは人を寄せ付けない、格好つけた男性だったんじゃないかと思うようになった。
全てを晒し合って分かり合うことが恋愛だと信じて疑わなかった当時の私は、誰よりも昌さんの全てが欲しくて、幾つもの顔を持つ彼を独り占めしたかった。
それは……独りよがりで叶わなくて当然の恋だったと今ならわかる。
全てを分かり合うだなんて…所詮綺麗事で到底無理な話。
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