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昌さんはーーーー
「ママァァ!!」
昔の恋に想いを馳せて浅く息を吸い込んだ私を呼ぶ宗の足音が近づいてくる。
「宗、ちゃんと身体を拭いて…」
慌てて泡まみれの手を洗い流して、バスタオルをマントにして裸で立つ息子の側に膝をつく。
「あのね、ママ。パパってばスゴイんだよぉ。…だってね」
湯上りで石鹸の香りをまとう息子の肌はピンクに染まっていて、髪から落ちる雫を拭きながら自然に綻んでくる表情。
あぁ。
私、母親なんだなぁ……
宗のいない生活なんて考えられなくて、結婚や家庭が描いていた夢ではいられないと今なら解る。
昌さんは、私に「妻」や「母親」という役割を求めなかった。
昌さんはーーーー
もう一度、家族を持つ気が無かったのね。
濡れた頭をバスタオルで拭きながら洗面所から出てきた匠は宗と同じ匂いがする。
「ママも入っておいで」
宗にパジャマを着せながら匠を振り返ると、冷蔵庫からお茶を取り出す匠の出会った頃よりも落ち着いた眼差しがあった。
「うん、そこ片付けなくちゃ…」
「あとすすぐだけだろ?やっとくよ」
「パパぁ、宗もお茶いるー」
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