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マンションの手狭な台所に家族三人で立つ。
「素直に手伝ってって言えよ」
プラスチックのコップを宗に手渡した匠との距離が縮まる。
「え?いいよ、大丈夫だし…」
た、た、た、たたた、と宗が離れていくと
付けっ放しだったテレビからは宗の好きなアニメのオープニング曲が流れて、束の間の夫婦の空気が出来た。
「疲れが取れてないだろ?典子だけが負担を背負うことないんだよ。俺だって一応の家事は出来るんだし…」
何年経っても変わらない匠の優しさに驚きつつ有り難いと思う。
「次の土曜は休みが取れたから、俺が宗の面倒見るよ。典子は好きなことしてろよ」
そんなに優しく気遣われては、コールスローサラダの動揺を見抜かれていたのかと目を見開いた。
「続きはやっとくから、ほら…風呂入っておいで」
匠は固まる私を不思議がる気配もなく、軽く目を合わせて自分が使ったグラスと宗のコップを洗い始めていた。
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