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わかってる…
人生の幾つかあるターニングポイントに立つ時、スムーズに行く人間とそうでない人間がいること。
望めば手に入る環境にいる人間と望んでも欠片すら掴めない人間がいること。
「お腹いっぱい。さ、片付けよ…」
納得して前に進んでいるつもりだったのに。
水の張った洗い桶に入れた皿から浮いた油が水面に浮かんで決して混ざらない模様を作る。皿やコップ、フライパンの順に泡のついたスポンジで汚れを落としていく。
一人だけの洗い物とはいえ、すすぎの為に勢い良く出した水は指先が痛いくらい冷たくて指先をギュッと握り締めて小さく震えた。
一人だけの食事も私の音しかしないこの部屋での暮らしも馴れたはずなのに。
キリギリスになったら、どうなるの?
ただの童話なのに。
心の隅に引っかかるものを未だに解消できていない。
一回り以上の人を相手に、初めての本気の恋に破れて傷ついて母から逃げるように始めた一人暮らし。
これでよかったかなんて、わからない。
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