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桜の花の開花宣言を聞いた数日後。
大気中を舞う黄砂や花粉のせいかオフィスの窓から覗く薄曇りの空。
課長以上は会議に出席していて、穏やかな午後の静かなフロアに微かな話し声とパソコンのキーボードを打つ音がする。
明日の午後に使う会議の資料の50人数分のコピーとそのホチキス留めを口実にして空いているミーティングルームに一人篭った。
A3の用紙をA4サイズに折り畳んで、テーブルにレジュメから順番に並べて行く。
急ぎなら30分も掛けずにやり終えてしまう作業だけど、今日はコレを済ませれば頼まれた仕事は無い。久しぶりに定時で帰るつもりで手元はゆっくり動かした。
コンコンコン。
控え目な音が聞こえてミーティングルームの扉が開いた。
「…すみません、柳澤さん?明日の会議資料の差し替えがあるんです」
その声に無意識に眉根を寄せて、青い輪っかの滑り止めを付けた人差し指を止めた。
「あぁ、作っちゃいましたか?本当に申し訳ない…」
革靴が近づく音。
テーブルに並べた用紙に影が映る。
「いえ、まだホチキス留めもしていないので間に合います」
顔は上げずに並べた資料に頭を動かす。
「すみません。俺、コピーして来ます」
営業から提出されていた資料がテーブルから抜かれた。
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