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桂は勉学を求めて、現在の私立校を選んだ。蔵書の件も選んだ理由の内だが、保臣に負けたくない気持ちから選んだとは、誰にも打ち明けていない。
正反対の能力で彼と対等になる。
しかし桂は独りで努力する保臣の背中を見て、ある感情に気付いてしまった。
それは彼への、“好意”と呼べるものだった。
いつも、彼の背中を追いかけていた。
走っても走っても、追い付くことが出来ない。
憎々しい背中だとさえ思った時期もある。
だが、今は違った。
それぞれ違う道を選んだというのに、桂にとって保臣は競争相手以上の存在となっていた。
あの背中が憧れであり、苦しめるものであり、愛しく思えるものになっていた。
自分は保臣のことが好きなのだと自覚した。
「ま、俺が本気出せばよ……」
二軍昇格したのを自慢し始める保臣の両手は、しかし全体がテーピングでぐるぐる巻きで、おそらく素振りによる肉刺(まめ)がいくつも出来ているのだろう。
「くす……」
そう想像してしまうと、自慢している姿がなんとなく可笑しく思えてしまって、桂はつい笑みをこぼしてしまう。
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