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 昔から、性格の明るさと運動神経だけが取り柄のような奴だった。くったくのない人柄は周りからも親しまれ、いつの間にか彼の周りには、人が絶えない状況になっていた。周囲は勉強こそ出来ないが、人より抜きん出たその運動能力を、一種神がかり的なものと捉えていたのかもしれない。本人もまた、それなりの自負を持っていたのだろう。  それが高校の野球部に入って、見事に打ち砕かれた。彼の周りには、それこそ彼以上の能力を持った人間が何十人といたに違いない。  だがそれがかえって本人のやる気に火をつけ、更に今までもてあそんでいたようなその能力が、真の力を発揮するに至ったのだ。  ある、夜のことだった。  家族で外食をしに出かけた帰り道、通りすがった公園の方をふと見ると、そこにはバットを握りしめ、ひたすら素振りをする保臣の姿があった。  ここ最近、とんと会うことが少なく、夜も、向かいの彼の部屋の電気がつくのは随分遅くなってからで、毎晩何をしているのだろうと気にはなっていたのだが、まさかああやって必死に、真剣に自主練習をしているとは思わなかった。  この時、彼の本気を初めて桂は見た。
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