8人が本棚に入れています
本棚に追加
「お届けものです」
朗らかな男の声に、母が宅配でも頼んでたのかもな、と藤倉昭人はすぐに自分の部屋を出て、錆びついた古いマンションの玄関扉を開ける。
隙間から見えた男は白いTシャツに黒のジーンズ姿で、ラッピングされていない植物の鉢を抱えている。
プレゼントにしては変だし、花を頼むような趣味はなかったよな、とは思いながらもドアチェーンをはずした。
「じゃあ、適当に置いてください」
昭人は自分が脱ぎちらかした学校指定の靴をどけながら言うと、男はなぜか玄関へ上がりこみ、後ろ手に扉をしめた。
「配達じゃなくてすみません。ちょっとお願いがありまして」
「はあ」
言われた意味がわからずに、昭人は無遠慮に相手を見た。
細面で頼りなさそうだが、Tシャツはまるでアイロンがけをしたように、ぴしりと整っている。
まるで、育ちのいいどこかのご子息が屋敷を抜け出してきました、と言わんばかりの清潔感だ。
さらに人を疑ったこともないような表情で、嬉しそうに微笑んでいる。
「私は連城広希といいます。この子は『浄火』。まだ咲いてないけど赤いハイビスカスだよ」
いきなり名乗られても花の説明をされても、何がなんだかわからない。
「で、何の用ですか」
最初のコメントを投稿しよう!