8人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
何もかも騙されたような気分で外に出ると、日常の雑音にまぎれ、電話のように耳に近い声が、ごく普通にあいさつをしてくる。
もちろん、そばには誰もいない。
その激しい違和感に、いくらも歩かないうちに立ち止まった。
「うあ、ちょ、おれ、気持ち悪い」
大丈夫か、と遠い声がする。
そいつらがどこから見て発声しているのか、その距離感がまったく掴めない。
「好意的でいいじゃないか。私は緑を殺すのも仕事だから、誤解されやすくてね」
広希が急にまじめな声になった。
「殺す?」
聞き違いかと思ったが、訂正してはくれない。
「一緒に来てくれるかな」
広希がハイビスカスに笑いかけると、周囲の声がぶつっと消えた。
手品を見せられたあとのような疑問を解くために、昭人はうなずくしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!