【3】一番近くて遠い君へ

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「…遅かったね。」 俺は教室に現れた杏奈に声を掛けた。 杏奈は黙ったまま教室の入り口で佇んでいる。 「こっち来てよ。」 俺は手を差し出す。 杏奈は青白い顔して言われるがままに俺に近付く。 さっきの俺は敢えて『佐野先生にバラされたくなかったら』とだけを言って、『何を』を言葉に付けなかった。 一体杏奈は何をバラされたくないんだろう。 キスの事? それとも佐野先生への恋心か? 俺には杏奈の心がわかる筈もなく、 ただ彼女に触れるだけ。 さっきの勝負は俺が杏奈に勝った。 杏奈は動揺を隠せないまま俺に負けた。 俺は最低だ。 自分でもわかってる。 だけどどうしても君が欲しいんだ。 俺は杏奈を引き寄せ抱きしめる。 愛しさを包み込むように抱きしめる。 ああ杏奈、君が好きだよ。 杏奈は力なく俯いたままで、俺はそんな彼女に付け入る。 窓際に杏奈を押し付けて唇を重ねた。 杏奈はもう嫌がらなかった。 目を閉じて俺を受け入れる。 『一番近くて遠い君へ』 河邑の想いが俺の想いと重なった。 ああ、こういう事だったのか…、 何て虚しい……。 そう思いながらも俺は杏奈の唇から離れられず、 杏奈の髪を撫でながら彼女の唇を堪能した。 .
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