目覚めの朝

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そして一方、これから向かおうとしている彼の言うところの集落では、朝早くから崩壊したこの本島での営みを始めていた。 海岸から離れた荒野にあるそこはかつて戦場で崩れた建物などが散らばり決して人が住みやすいようなところではない。そんなところでかつての文明的な生活を捨て、生活しているのにはわけがあるが、彼等はそれを進んで口にすることはなく、日々不自由しながらも暮らしていけている。 昔はまだ大きなテントやトタンで建てられたお粗末な家が少なからず集まった、文字通りの集落でしかなかったが、今や集落に流れてきた者達により一つの街のようになりつつあり、活気に満ちている場所だ。 さて、殺伐とした土地に暖かくも慌ただしい生の営みが日々行われているこの街の一角では朝から子供たちが荒野に作られた畑で汗を流し働いている。見たところ8、9歳そして10代前半の女の子や男の子が多い。そのそれぞれが泥だらけ、しかもところどころ破れたような服で鍬を持ち、額に玉の汗を浮かばせながら耕している。  その顔には生気が満ち溢れ、悲壮感など微塵も感じさせないところから分かるように強制的に労働させられているわけではない。彼、彼女たちは自分から進んでしていることだ。 「わあ、ミミズ、ミミズがでたぁ!」 「ちょっと、それこっちによこさないでね! ウチそれ嫌いなの!!」 「もお! ちゃんとお仕事しようよ! お姉ちゃんに怒られるよぉ」 決して狭くはない畑を耕すのは骨が折れるだろうに、可愛らしい子供たちは元気いっぱい、それぞれ農具を振るっている。植えるのはサツマイモかジャガイモだろうか。  そんな子供たちの声を聞いたのか、畑の近くに立つ、小さな宿泊施設ほどもある、褪せた色の木板と赤い屋根が特徴的な建物から、ジーンズに白いTシャツという何とも動きやすそうな格好の女性が出てきて子供たちに一喝。 「ほらほら、早く済ませないと朝ごはん抜きだよ! 楽しくやるのは結構だけどだらだらしなさんな!」 ぱっちりとした目に少し癖のある長い黒髪を頭の後ろで束ねた、まだ若い美人で快活な女性がにいっと口元を上げて子供たちが耕している畑に足を踏み入れた。
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