目覚めの朝

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「うわあ、かざねお姉ちゃんだー!」 「みんなーっ、お尻叩かれたくなかったらちゃんとしよー!」 「あはは、みんな頑張ってくれてるんだからお尻叩いたりなんかしないよ! 朝ごはんの準備が出来たから姉ちゃんも手伝いに来たのさ、どこまで終わってるんだい?」 「もうあとあっちだけだよー」 「ん、もう少しじゃないか、早く終わらせちまおうよ」 かざねと呼ばれた女性は子供たちが持つものよりも一回り大きな鍬を持ち、まだ耕し終わっていない区画に出向いて、やんややんやと話しかけてくる子供たちと共に土を掘り返す作業を始めた。 どうやらこの子供たちの面倒を見ているのはこの女性であるようだが……、親というわけでもあるまい。だが朝食を用意したという口ぶりからただ面倒見の良いお姉さんというわけでもなさそうだ。  彼女を中心に、子供たちは最後の一仕事にかかっている。青空の下、えっさほいさと鍬を振り続けて数十分。やっとこさ全ての畑の土を耕し終わりこれから朝食にしようということになり、一仕事終えた子供たちはそれぞれ喜び勇んで宿泊施設のような家に戻ろうとすると、随分と遠くから何やら聞いたことのある重低音がこちらへ向かってきているのに気付いて、かざねお姉ちゃん! と口々に、疲れも吹っ飛びそうなぱぁっとした笑顔で呼びかけた。 「あらあら、随分久しぶりに聞くねぇ、この2気筒エンジン音」  みんなして音のする方をじっと眺めて、その音の正体を今か今かと待ちわびる。かざねは額の汗をタオルで拭い、畑のすぐ横を通る舗装されていない砂地の道へ躍り出た。道のど真ん中に出てきたかざねに気付いたのか、モスグリーンのサイドカー付きバイクはその速度を緩め、ほどなくしてすぐ近くで停車しエンジンの音が止む。  熱により膨張していたエギゾーストパイプが冷えて収縮し、その歪によるチンチンという音が粋な余韻を演出している。
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