目覚めの朝

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「よう雛坊、しばらくぶりだね!」 右手の指を伸ばし、頭の上に持って来ながらかざねは優しい笑みを浮かべ、バイクに乗ってきた彼もそれを見てなにか思うところがあったのか、くすぐったそうに笑い……。 「久しぶり、風音さん。元気そうで何より、お前たちも」 「ひな兄! ひさしぶりー!」 わっとバイクの周りに集まってきた無邪気な子供たちは久しぶりに会う顔の訪れに心から喜び、ヒナキの名を呼んだりバイクをぺたぺたと触ったりして慌ただしい。そんな手荒な歓迎にもかかわらず、雛樹は足にしがみついてくる女の子の頭を撫でつつシートから降りた。 「しばらく見ないうちに畑が広くなったみたいだ」 「この子たちも随分慣れてきたからね。たくさん作物が取れりゃそれだけ腹いっぱい食えるってもんだからさ。で、今回は何の用で来たんだい? まさか顔を見たくなったってわけじゃないさね」 「はは、残念ながら。そろそろ消耗品が底を尽きて来たし、調達しに来たんだ」 久しぶりに人と話すために気分が高揚しているのか、上げ調子でそう言うとヒナキはサイドカーに積んでいた魚であふれんばかりの生臭い籠を持ち上げ取り出す。  その籠の中身を見るや否や、子供たちは目をキラキラ輝かせて口々に、もの珍しい魚についての感想を思い思いに口にしている。   太陽光を反射して鱗が光を持ち、輝く様にみな興奮しているようだ。 「鮮度のいいのが入ったから、こいつらと交換しようと思ってさ。どうする? 余裕がないなら他当たるけど」 その籠を風音に渡すと、予想より重かったのか彼女は驚きの表情を浮かべながらおっととっととを取り落としそうになる。 「へぇ! こりゃ大したもんだ。ここじゃなかなか新鮮な魚なんて手に入らないからね、子供たちも喜ぶよ」 「めずらしいな、応じてくれるなんて」 「備蓄がそこそこ余ってるからね。この子たちもよく働いてくれるから物資調達に余裕が出てきたのさ」 風音は小さなアジを持って鮮度を確かめるように眺めている。確かに納得の鮮度の上に血抜きもしっかりされている、今晩のおかずは決まりだねなどと考えていると……。 「風音さん、爺さんに少し聞きたいことがあるんだ。今は家に?」 「えっ、ああ。今日は物資調達に朝早くから街に行ってるよ。お昼過ぎに帰ってくるから、それまでここに居るといいさ」
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