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そんな笑顔がこの子供たちと食べる朝食をさらにおいしいものにさせる。愛情があれば何でもおいしくなるなんて言うが、それもあながち嘘ではないのかも……そんなことを思いながら一回り大きなパンのひとかけらを口に入れ咀嚼する。
一足早く朝ごはんを食べ終えた子供たちはみんな一様にそわそわしながらヒナキの元へ集まってきて……。
「ひな兄あそぼ!」「あそぼあそぼー!」
みんなして口々に雛樹へ言葉を投げかける。そう、彼等はヒナキがここへ来た時からずっと彼と遊ぶのを心待ちにしていたのだ。
ヒナキもここへ来るたび遊んでやっているが、子供たちからかなり評判がいいらしく歓迎される理由の一つである。
「ご飯食べた後すぐに動くと体に悪いから、もう少し休憩してから外に行こうか」
「はーい!」
素直にヒナキの言うことを聞き、子供たちはそれぞれテーブルに戻ってひな兄と何して遊ぼうかと和気藹々と話し合い始めて、子供たちからの包囲が無くなったヒナキは風音に真剣な表情であることを問う。
「あれから奴らをこの近辺で見かけたことは?」
そう問われた風音は一瞬奴らが何か考えたようだったがすぐに察したらしく、ああ、と相槌を打ち。
「あの化け物の事かい? この近辺では見てないねぇ……じっちゃんが物資調達の途中で見かけることはあるらしいけど、それはこの近辺じゃないし……あ、そういえば」
彼女は今の話題について何かを思い出したらしく、両手をポンとたたき合わせ、ヒナキに視線を向ける。
「そういえば?」
「箱舟に対する化け物どもの襲撃が増えてるんだってさ。崩れゆくここから旅立つために作った箱舟が化け物に襲われるなんて皮肉な話だよ」
故郷を捨て、崩壊から逃れた箱舟を襲うその“化け物”とは一体何なのか。ヒナキの頭の中には鮮明な姿が浮かんではいるが、あまり想像したくはないために無理矢理脳内からそのおぞましい姿をかき消し立ち上がり、食べ終えて空になった皿を持ち上げ炊事場に運ぶ。
「あたしが洗っておくよ、ひな坊は子供たちと遊んであげな」
凛々しい顔をにこやかに綻ばせ、風音は皿を洗おうとするヒナキの肩をぐいと子供たちの方へ押す。押されたヒナキは本当に手伝わなくていいのかと問うがさっさと行ってきなと一蹴されてしまった。
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