目覚めの朝

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風音に必要とされなくなったヒナキは子供たちの元へと行き遊びに行こうかと声をかけると、待ってましたと言わんばかりに立ち上がり、ヒナキを連れて外へ飛び出していった。 ……。 「ご報告があります、サージェス大佐」  金属質の壁に囲まれた廊下に姿勢よく立ち、油圧式の重厚な自働ドアのすぐ隣に備えられているインターホンへ向けて言葉を掛ける。  厚く丈夫な生地であつらえられた黒いロングコートと、それに合わせるようなデザインのパンツを身に着けた、黒く艶やかな髪を後頭部で束ねた切れ長の目の、少々気の強い印象を与える女性がしばらく返答を待つと、インターホンからの返答はなくガスが抜けたような音を立てながら重厚な扉だけが開いた。  「またですか」彼女はそう言いながら半ば呆れたようにため息をつきつつ佐官クラスに与えられる個別の執務室の中へ歩を進めた。  進めた先では乱れた制服を慌ただしく直す女性と執務机に足を乗せ、どっかりと座る無精ひげに色素の薄い短髪の欧米人と思われる中年男性は、間の悪い訪問者に向かって酒やけした低くすこしばかりしわがれた声で……。 「今ぁちょいとお楽しみだったんだがなぁ……」  おぼつかない足取りで小走りしつつ、訪問者である仏頂面の彼女におざなりな会釈をしながら執務室から出て行った彼女に一瞥もくれず……。 「執務室に通信士の女性を連れ込むのは止めてくださいと何度言えば分かるんです?」  抑揚を抑えた冷ややかな声でそう言う彼女に対して、行儀の悪い態度をとり続けるサージェスは右耳を小指でほじりながら……。 「俺がどの女に手ェ出そうと勝手だろぉに。老い先短いおっさんにくらいいい思いさせてくれよぉ枝鶴ちん」 「あなたは今、この艦を担う身分なのですよ。それにふさわしい風紀と威厳を保っていただかないと部隊の士気にかかわります」  間髪入れずに下士官にそう突っ込まれ、やれやれ厳しいねェとぼそり。それを聞き逃さなかったシズルと呼ばれた彼女は、抑えがたい怒りの感情を内包した瞳を向け、サージェス大佐は気圧され椅子の背もたれから体を滑らせ座高が低くなる。 「やぁやぁおっかないね。で、ご報告ってなぁなんだ結月少尉」  居住まいを正し、胸ポケットから煙草を慣れた手つきで取り出して口にくわえるとよく磨かれたアンティークライターで火を着ける。
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