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「了解しました。航行システムに指示しておきます。だからさっさと承認してください好色男。もたもたしていると本土に着いてしまいますので」
「ぶはは、色好きなのぁまちがいねぇやな。通信士が駄目ならシズル、お前が相手してくんねぇかなぁ。お前さん相手にできるなら男冥利に尽きるってもんだ」
言っていることは下品ではあるがその顔にいやらしさなど微塵も感じさせない。絵に書いたような助平な男だが嫌悪感を感じさせないのはそういうところだろうかと思考しつつシズルは……。
「しっかり仕事をしていただけるのならば考えても良いですよ」
「どっへぇ! 本当かよ! するする、するぜ仕事! ほれ」
勢いよく承認ボタンを押し、シズルの色よい返答を待つ彼だったが、シズルは口元を上げ、妖艶な笑みを見せると……。
「あなたに私の相手が務まるとは思えないのですけれどね」
「お、おお……」
ふふっと笑い、何事もなかったかのようにその場から去ってゆく彼女の背中を呆然と見送り、サージェスは言葉にできぬほどの昂ぶりを感じつつ。
「やっぱとんでもなくいい女だなぁおい。俺みたいなにゃあもったいねぇやな……」
嘆息と共に吐きだしたその言葉は部下がいなくなり静かになった執務室内で響くことなく消えて行った……。
箱舟と十字架をイメージしたエンブレムが装着された黒のロングコートを靡かせ、上司に一部武装解放の承認を得た甲斐枝鶴は足取り軽く今いるこの艦の艦橋へと向かっている。
途中すれ違う船員に挨拶をしつつ、金属質な足音を鳴らし複雑な構造の艦内を迷わず歩いて数分、油圧可動式の扉を開いた先には開けた空間。
見渡す限りの大きな窓からはこの艦からの外の景色が一望でき、中央には質量化光子によるホログラム映像で表示されている海域マップとその他航行に必要な情報が何もない空間に浮かんでいる。
外周には様々な情報をやり取りしている通信士や、艦操縦士などがせわしなくインカムを通して話をしているようだ。
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