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「結月少尉、許可の方は下りましたか?」
航行システムを、ホログラム前で管理している艦操縦士の一人が芳しい結果を持ってきたであろう結月シズルに話しかけ、それに答えるようにシズルはホログラムへ指輪を向け、武装解放許可された兵器の情報を表示させた。
「いくつかの対地兵器は使えませんが、偵察には十分な兵器の解放許可が下りました」
どこか安堵したふうなシズルに対し、艦操縦士の男は顔をしかめてホログラムの兵器情報を閲覧する。
「本当に最低限ですね……今や本土側政府軍の対空兵器も強化されているというのに」
「偵察任務の今、我々が今懸念すべきは対空兵器ではなく本土人への対応です。今から向かう集落の人々も我々を歓迎してはくれないでしょう。政府軍ならば武力でなんとでもなりますが、一般人を武力で制圧することは好ましくありませんから」
そのような内容の話をしばらく艦操縦士と交わし、最後に反重力機関の稼働準備を進めておきなさいと言い残すと彼女は息抜きに海風に当たろうと甲板に出て行った。
(雲一つないよい天気です)
甲板にある艦載機発着場の端には手摺も何もなく、そこを超えればとんでもない高さからの海を眼下に捉えることになる。シズルはそこに立ち、眼前に見えてきた本土を眺めていた。かつて自分もそこに住み、生活していたがもうほとんどその記憶は薄れてしまっている。
ただ、はっきり覚えているのは屈強な兵士に囲まれ、薄汚れた大きい布きれとフードに身を包み、身の丈に合わない物騒な銃を下げた男の子の姿。しみじみと、そんな思い出を掘り返していると眼下の海になにか変化が現れた。
「あれは……大型の哺乳類でしょうか」
海から何か跳びだしては沈み、跳びだしては沈みとせわしなくこの“艦”と並走している動物が見え、彼女は目を凝らしてよくよく見てみると、何やら白いクジラかイルカのようなものということがわかる。
海に出てこんな生物に出会うのは初めてだったので少しばかり気分が高揚するが、海にいる彼らは何やら遊んでいるわけではない様子。この艦を警戒して騒いでいるのかそれとも別の何かかはわからないが……。
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