49人が本棚に入れています
本棚に追加
……。
「……?」
子供たちと鬼ごっこをして遊んでやっていたヒナキは何か背筋に走る違和感を感じ、自分の家がある方角、もっと言えば海の方角に首を動かし静止した。そして意識せず瞳に赤色が差し……。
「ひなにいタッチ!」
「おお」
鬼である子に追いかけられていたところに止まってしまったためにタッチされ、今度は鬼になってしまった。タッチして追いかけられる番になった女の子は大はしゃぎで逃げてゆく。赤みを帯びた瞳の色は元に戻ったが、この胸騒ぎはシロイルカたちによるものだ。
なんの因果かは知らないが、家の前の海岸に来るシロイルカ達と仲良くなってから時折こういった虫の知らせのようなものを感じるようになったのだがそのはっきりとした理由は自分でも分かりかねていた。
「やられたなぁ、ほら追いかけるぞしっかり逃げるんだぞ!」
「ひなおにいがくるぞー!」「ひなにいから逃げろー!」
海で何かが起きているのではないか、そんな不安を感じてはいたが今は子供たちと遊ぶのを優先しよう、そう心を切り替え鬼として彼らを追っかけて行った。
そうして一時間くらいだろうか、一生懸命に遊ぶ子供たちの相手をして施設に戻ったヒナキは少しばかり汗をかき、子供たちは息ひとつ乱さずみんなと満足げに騒ぎながらそれぞれ手洗い場へ走っていく。
「随分本気で遊んだんだねぇ」
「あの子らが本気なんだ、こっちも手を抜くわけにはいかないな」
満足げな子供たちを見て嬉しいのか、笑顔の風音は使い古された、凹凸だらけのチタン製コップをヒナキに渡し、そこに水で満たされた瓶の口を傾ける。
「おっと、ありがとう」
なみなみと注がれこぼしそうになったところで礼を言い、注がれた水を一気に飲み干し豪快に息を吐く。
「もう一杯いるかい?」
「いや、あとは子供たちにやってくれ。……にしてもこんなおいしい水を飲んだのは久しぶりだ」
言うように、その水は確かに口当たりが良くスッとのどに入っていく感覚が心地よかった。こんなおいしい水をどこから、と風音に問うと……。
最初のコメントを投稿しよう!