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「じいちゃんが良いろ過装置を作ってね、それを使って綺麗にした水さ」
「へぇ、ろ過装置か。相変わらず発明家なんだな」
「実用性の無いガラクタまで作るから迷惑極まりないんだけどね。もう物置は使えもしない瓦礫でごった返してるよ」
肩をすくめてそう言った風音に同意するようにヒナキも苦笑いを浮かべる。彼もその発明家の節操の無さは知っているため、しばらくここへ来ていなかった間にただでさえ窮屈だった物置がどうなっているかなどは考えたくもない。
おもいっきり体を動かした後の火照りが落ち着いてきたところで、大広間のテーブルにつき、一休みすることになったのだが……。
「? どうしたんだいひな坊、そんな難しい顔をして。お腹でも」
「厄介なのが近づいてきてる。今すぐ子どもたちを二階の部屋へ連れて行って静かにするように言ってくれ」
「ちょ、ちょっと、突然何を」
「政府軍の車両が来る」
足元をくすぐる微かな揺れと、本当に集中しないと聞こえないような低く響く音、そして物々しい気配。そういったものに敏いヒナキはすぐさま風音に指示を出し、事の重大さを最後の言葉で察した彼女も言うとおりに動く。
「かざ姉どうしたのー?」
「あたしと一緒に二階のお部屋に行こうね。ちょっと危ない人達が来るからさ」
「はーい」
子どもたちもこういった環境で察しがいいのか、ヒナキがついて来ないにもかかわらず大人しく風音に従ってみんなして二階に上がっていく。
窓に近寄っていくヒナキの背中を見る子どもたちの顔は不安そうなものだったが、風音はこういった時のヒナキの頼もしさに少しばかり安堵しているためか、落ち着いている。しかしそれでも胸中は穏やかではない。
政府軍統治下ではないこの集落にとって、政府軍はただの邪魔者でしかないのだ。
ヒナキは窓のそばの壁に背をつき、どんどん近くなってくる車列の音と気配をじっと聞いている。このままここを通りすぎてくれれば何事も無くやり過ごせるのだが……。
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