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今覗きこめばちょうど窓から車列が見えるというところで、ヒナキは顔を出し目を凝らす。視界の左側から右側へ、土煙を上げながら3台ほどの軍用車両が畑脇のあぜ道を走ってゆく。ここを素通りして行くところを見ると普通ならばここには用はないらしいと見て間違いないはずなのだが、ヒナキは違った。車列一番目の後部座席の真ん中、政府軍の兵士に挟まれるようにして座っている短い白髪に少しばかり強面の老人を目に収めてしまったためだ。
(……なにかやらかしたな、じいさん)
ヒナキはそう思いながら頭を抱えたくなった。車両の座席に座っていた顔見知りの老人こそ、風音と共にこの施設で子どもたちの面倒を見ている人物だったのだ。その人物は今日この施設を留守にしていて、物資調達に出かけているはずだったのだが、何かの理由で政府軍に捕まり、ここまで連れて来られている。
何か悪さをしたのか、物資調達に少々荒い手段を使い政府軍に目をつけられたのか……、どちらにせよ、今やこの崩壊した島国を支配し、統治しているつもりでいる政府軍に反抗的なこの集落の人間が捕まっているという状況はあまりに危うい。
「ひな坊」
「うっ……!?」
「ああごめん驚かせちまったね」
集中して考え込んでいたヒナキは突然背後からかけられた声に驚き小さく肩をびくつかせる。声の主はもちろん二階に子どもたちと一緒に上がっていた風音であり、車両が過ぎ去ったのを見てから安堵し、下で様子を見ていたヒナキに声をかけに来たのだろう。
子どもたちはまだ上の階で静かにさせているらしく、これについては好都合だった。
「奴ら、集落の中心に向かってったけど、中央商店に何か用でもあるのかねぇ」
風音は自身の祖父が政府軍に捕らえられていることを知らない。ここで知らせても無駄に心配させるだけだが……隠していて後味の悪い結果になってしまえば後ろめたい。
話した結果、どう転ぶかは分からないが……。
「風音さん、落ち着いて聞いてくれ」
「ん?」
なんの構えもなく、風音は自分の話を聞こうとしていることに一抹の不安を感じたが、すぐさま言葉を続けて……。
「じいさんが政府軍の車両に拘束されていた」
「……え?」
ヒナキの不安は的中した。風音の顔からさっと血の気が引き、不安と絶望が入り混じった表情に変わる。しかしヒナキは話を続け。
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