目覚めの朝

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 今までもひどい状況に陥ることはあった。そのたびに自分と祖父で子どもたちを励まし、子どもたちから励まされ持ちつ持たれつしっかりやってきたではないか。今回はヒナキに励まされなんとか腹は据わった。さぁ、後はできることをやるだけだ。  ヒナキは飄々としていて少しばかり頼りない風貌だが、そう見えて兵士の証明であるドックタグを首から下げているだけの実力はある。  彼についての詳しい話を昔祖父に聞いたことがあった、その話はもう忘れてしまったが頼りになるということは身を持って知っている。 だからこそ、彼の言葉を素直に受け止めることができたのだ。 風音を奮い立たせる言葉を放ったその頼れる彼は、停めていたバイクのところまで走り、鍵を使う。使ったのはエンジンをかけるためでなく格納コンテナからもしもの時の保険を取り出すためだ。  慣れた様子で素早く必要なものを取り出してゆく。一番初めに取り出したものは意外なものだった。ところどころ機械的な部品が装着された、クロスボウ。近代的な改修が施されてはいるが、銃などと比べると時代錯誤な部分もある、しかし物のない今の時代、クロスボウのような原始的な武器はメンテンス性が良く、部品の調達も比較的容易なので修繕もしやすい、しかも矢以外も飛ばせるので重宝しているのだろう。それをジャケットの上から装着した特殊なアタッチメントを用い背に取り付けた後、矢の入ったバッグを腰の横に備え、何本かの投擲ナイフをベルトに差し入れ、あとは大振りのアーミーナイフをジャケットの下に隠すようにして腰後ろに装着し、その他いくつかのものを持ち徒歩で軍用車の追跡を開始する。 追跡と言ってもこの集落の中心に向かったのならそう長くはかからないはずなのだが……。  軍用車のパワフルな駆動系と装甲を張っているための高重量により残るタイヤ痕は風に吹かれ他程度で消えるほど浅くはなく、たどることは容易だろう。
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