目覚めの朝

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「っ……!!」  目をかっと見開き、彼は跳び起きた。ぼんやりとあけられた口からはせわしなく呼吸が続き、体中から不快な汗が止めどなく滲んできている。ぐるぐると暗く重い、吐き気のするような思考を巡らせ、軽く震える右腕で額の汗を強く拭う。 またあの夢だ……彼は外から聞こえてくる涼やかな波の音を耳に入れ、落ちついてきた気持ちに何とか区切りをつけて起き上がる。  ささくれ立った木板張りの床に足を着け、ふらついた足取りでお世辞にも綺麗とは言えない台所へ向かい、透明な瓶に入った生ぬるい水を使い込まれて色あせた木製の器に注ぎ、一気に飲み干した。カラカラに乾いた喉を通り胃へするりと流れ込んでくる感覚、ぷはっと息をつき、全身に潤いが巡るのを感じながらところどころヒビの入った鏡に視線を移した。  そこに映っていたのはぼろい布であつらえられた寝間着に身を包み、ぼさぼさと煩雑に伸びた黒髪に中性的な顔を持つ青年だった。顔つきは日本人だが、不思議なことに右の瞳だけ赤く、瞳孔は縦長で、獣のようである……が、ぶんぶんと頭を振って再び鏡を見ると黒い瞳に丸い瞳孔と、ごく一般的な人間の瞳に戻っている。  これについてはもう長年付き合っている持病のようなもので、自分の中では折り合いがついている。幼いころにとあるイレギュラーに襲われたことが発端となっているという原因も分かっているために不安感もない。  そろそろ髪を切らなくてはと、まだ眠たげな鏡の中の自分に一瞥くれると朝食をとるために外へ出ようとするが、外への扉のドアノブへ手をかけようとして思いとどまった。まだ肌寒いため、少々厚手のコートを羽織ってから外へ出る。  蒼穹に登った太陽から注がれる光が眩しく、右手で庇を作りながらウッドデッキへ。室内からでも聞こえていた波の音が一層大きく、少しばかり湿った海風と共に飛び込んでくる。  ウッドデッキの下には白い砂浜が広がりその向こうには……青く澄んだ海原が水平線を刻み、新たな一日の始まりに彼の表情に冴えが現れ、夢の事も忘れ、どこか清々しさを感じさせる佇まいをみせた。
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