目覚めの朝

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 ここはかつて日本と呼ばれていた島国の美しい海岸。もう誰も来ず、汚されることのなくなった海岸はどこか寂しげで、神秘的な様相を呈していた。肌を撫でる潮風は冷たく、寝起きにはちょうどいい気つけである。  大きなあくびをしながら眠気が飛ぶまでのんびりとここで海を眺める……それが晴れた日の朝には欠かさずしている彼の日課である。これをした後、彼は年代物でボロボロの平屋、バンガローのような木造家屋の中に戻る。 顔と歯を磨くために洗面所に立つが、ここには水道などと言う便利なものはなく、近くの川から汲んできたり、雨水をためて煮沸した物を生活用水として使っており、洗面所の横の大きな水瓶の中にそこで使う分を溜めている。身なりを整えた彼は、張られた革が劣化し破れたり、背もたれが一部割れたりした木製の椅子に掛けてあった服を取る。  白色に少し赤みがかった厚手のジャケット、黒色無地のTシャツに迷彩色のカーゴパンツ、そして重厚かつ機能的、脛まで覆う長さの黒い軍用ブーツを身に着けた。  最後に壁の突起にぶら下げていた黒いゴム製のサイレンサーを装着した認識票……ドックタグを首から下げた。  胸の前で揺れた二枚一組のそれにはSHIDOU HINAKIという自分の名、性別、生年月日などの個人情報がローマ字で打刻され、最後にはCTF201の文字が……しかし、その文字のみ二枚とも同じように横一文字の傷がつけられている。  そうして服装を整えた彼は朝食のために小さなカセットボンベに五徳が付いたバーナーを繋ぎ、その上にフライパンを乗せる。持ってきた鶏卵と牛の干し肉、そしていかにも堅そうな丸いパンを持ってきて、鶏卵と干し肉を熱したフライパンの上へ乗せると、卵が焼ける音と、干し肉の香ばしい香りが鼻孔をくすぐり、俄然食欲がわいてくる。 (そろそろ生活用品と食料が底を尽くな……集落に行かないと)  何か物々交換できるものでもあったかなどと思考を巡らせている間にフライパンの上で焦げたものの匂いが鼻をつく。 「ああくそ……」
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