目覚めの朝

4/25
49人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
 彼は小さくため息をついた。残り少ない食料で作った朝食を少し駄目にしてしまい、落ち込んでしまうがそそくさとそれを木製の皿へ移す。捨てるという選択肢は初めからなく、失敗してカリカリに焦げたそれと湿気ってごわごわとした味気ないパンを食す。  焦げた目玉焼きは炭を噛んだような歯ごたえと口の中に広がるザリザリとした感触が相まってひどいものだったが、干し肉はカリッと香ばしく焼け、咀嚼するたびに凝縮された肉の旨みが食欲を刺激する。味のない湿気ったパンも干し肉の旨みと共に食べ切りぽんと両掌を合わせ、満足げに軽い笑みを浮かべて両掌を合わせごちそう様と一言。  しばらく満たされた腹を持て余し、動く気になれずちびちびと水を飲みながら心地よい余韻に浸っていると、何やら家の外からきゅうきゅうという鳴き声が重なり合って耳に飛び込んできた。彼は思わず聞こえてきたそのなにかの動物の鳴き声に心躍らせる。 「……! ん、丁度いい時に来てくれたな」  動きたくないなどとは言っている場合ではなくなった。ぎしぎしと軋む椅子から立ち上がり、古くなりところどころ沈む木板張りの床をこぎみ良く叩き外へ出る。再び広がる海岸、海原だったが、先程家の中で聞こえてきていた鳴き声はより鮮明に……そして。 「うるさいよー」  思わずそう言ってしまうくらいに五月蝿かった。砂浜から少し離れた海面からひょうきんな顔をした可愛らしい哺乳類、白イルカが数頭顔を出していた。それらはヒナキを呼ぶようにきゅいきゅいきゅうきゅうそれぞれ甲高く鳴くイルカの大合唱を左に聞きながら家のウッドデッキから一体として繋がる桟橋を、側面がところどころへこんだブリキのバケツを右手に歩く。  桟橋をヒナキが歩いているのが分かっているのか、白イルカたちはぴったりと横につき、ついてきている。しばらく行った先で階段を下り、海面ギリギリに設置された桟橋先端部へ降りた。 満潮の際はここも海水につかってしまうが今は潮が引いている。  そこまで降りるとこれでもかと海面を荒々しく波立て、白イルカたちが集まってきた。多くの白イルカが海面から顔を出し、彼が近くに来てからはテンションゲージが振り切っているのか、コミカルにぶんぶん首を縦に振る者もいる始末。  多くは甲高く可愛らしい鳴き声を上げながら口を開けたりしていて落ち着きがない。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!