目覚めの朝

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だがその中の何頭かは口を閉じていて何かを中に含んでいるような様子を見せている。バケツを持った彼は今日も大漁だなと呟きながら、ブリキの側面を持ち白イルカたちに向けると口を閉じた数頭が寄ってきてバケツの中に口の中で溜めていたものを大胆に出してくれた。  ばしゃばしゃとバケツの中で活きよく跳ねるそれらは銀色や青色などの光沢をもつ青魚が大半を占めているようだ。丸々と太ったサバやアジ、小さなイワシなどがバケツの中でひしめき合ってとても賑やかであり、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。活きのいい鮮魚を届けた白イルカたちは満足げにきゅうきゅうと大合唱。 「お前たちが食べる分だけでも大変だろうに……ありがとう、助かるよ」 鳴いているシロイルカのすべすべと光沢のある頭を、桟橋から身を乗り出して撫でてやる。ひんやりとした感触が伝わり、白イルカにもヒナキの体温が伝わったみたいで、彼らはその場でくるくると回り、喜びを示しているようだ。 彼らがヒナキにこれだけのご奉仕をする理由はしっかりとある。彼らの仲間の4頭ほどがここの海岸に打ち上げられてしまっていたのだ。その日は朝からとんでもない嵐がこの近辺を襲っていて海は随分と荒れていた。ようやく嵐が去り、近辺の様子を見に外へ出た時に海岸へ打ち上げられた彼らを発見したのだ。海はまだ荒れていたがすぐさま砂浜へ走り寄り、必死で海へ運んで荒れ海面から顔を出し打ち上げられた仲間をどうすることもできずただうるさく鳴いていた彼等を安心させてやったのだ。 本当に悲しく、残念なことだったがそのうちの二頭は死んでしまっていた。海に返してもただただ波にもまれるだけで群れに帰ることはなかった。  ただ、二頭は生きて海に返してやれた。その事実を腹の底に落とした時、何の感慨もなくここで暮らしていた自分の心に暖かな感情が芽生えるのを感じたものだ。 「世界を崩壊させるほどの大規模地殻変動がなければこうしてここでお前たちに会うこともなかったんだから……不思議なもんだよな」  そう言った直後にヒナキは悲鳴を上げることに。シロイルカたちが口の中で圧縮した海水を水鉄砲のようにしてかけてきたのだ。これは彼らなりの愛情表現、じゃれつき方だ。しかし服が濡れるために止めてくれというのだが……止めてくれたためしがない。
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