目覚めの朝

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この不思議な物体はついさっきシロイルカたちにもらった魚をバケツからひっくり返した時に一緒に出てきたものだ。シロイルカが間違って口の中にでも入れてしまったのだろうなどといくつか推測は立てていたが一つ、この記憶媒体らしきものの出所は見当がついていた。 「センチュリオンノアからの漂流物なんだろうな、こいつ」 それを再び胸ポケットへ仕舞い込み、彼は右足をシート上へ持ち上げて颯爽とバイクに跨り、重いクラッチを左手で握り、左足でギアを一速に落とす。がちりとギアがはまる音を立てアクセルを捻りながらクラッチを離してゆき、地面の砂を巻き上げながらバイクは晴天の下走り出す。  彼が道すがら見る荒廃した風景……灰色の大地に大量の瓦礫、そこら中に立てられた雑な石の墓標、焼け焦げ枯れた木のなれの果て。なにもそこだけの風景でない、かつて日本と呼ばれ繁栄を極めたこの列島が大規模地殻変動とその後起きた戦争により経済、土地、文明は瓦解していた。  この国は死んでしまったが、この列島の人々の一部はとある企業連が独自に設計、開発していた巨大なプロジェクトと共に列島を離れ、今も何の不自由なく生活している。  プロジェクト・ノアズアーク。崩壊した世界から逃れるために箱舟と呼ばれる巨大な海上都市へ、日本のみならず世界中の主要都市から最適な居住者を集め、地殻変動で現れた巨大な海溝の上に浮かんでいるであろうそれは異常な科学技術により発達した場所だと聞いたことがある。  その昔、彼もそのセンチュリオンノア行く誰かを見送ったことがある……本当に遠い記憶の中にある出来事ではあるが。
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