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ひらり、ひらりと、花びらが空に舞う。
ひっそりとした空き地で、見事な大輪の花を咲かせた一本桜の下。
舞い散る花びらの中で、青年は泣き続ける少女に囁いた。
「俺が、さらってやろうか」
「……え」
弾かれるように顔を上げた少女の涙を、青年は指で乱暴に拭う。
「本当のお前を見ようともしない、道具にしか思っていない。そんな家、捨てちまえばいい」
「いいの? 私の家を敵に回したら、貴方は」
大丈夫だと言うように肩を叩いた青年に、少女は嗚咽をもらして、何度も頷いた。
「夏まで、この桜の花が散るまで待っている。決心したら、ここに来い。俺が、お前をさらってやるよ」
差し出された小指に指を絡めて、少女は約束した。
「必ず、行くわ」
それに青年は僅かに口元を上げ、目を細めて笑う。
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