4406人が本棚に入れています
本棚に追加
/623ページ
「また、事業部に来てもいいですか。…吉永さんみたいに」
「…何言ってんだ佐倉」
初めて聞いたのなら、それは一見冷たく聞こえたのかもしれない。
でも、それは違う。
「確かに異動にはなるが、それで佐倉の居場所がなくなるわけじゃないだろう」
すごく優しくて、温かくて、でもどこか呆れたような声だった。
「いつでも来い。遠慮はするな」
…本当にすごい人だな、と何度思うのだろう。
クールで冷徹で、笑わない。
そんなイメージをかつて持っていた自分がいた。
確かにクールで、滅多に笑うことはない。
でもその裏では、ちゃんと部下のことを気遣って、考えてくれている。
たまにだけれど、その無表情の口端を上げてくれる。
この人の部下で良かったと、何度思ったことだろう。
「幸せになれよ。綾瀬は、必ず幸せにしてくれる。佐倉は何も心配しなくていい」
柔らかい笑みを浮かべて、彼はそう言ってくれた。
初めて見るくらいの、柔らかい笑顔だった。
最初のコメントを投稿しよう!