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「え~っと。しぃ、ごぅ、ろく……。全員揃ったぽいな」
先ほどレルヒに声をかけた男は、集団から孤立した立ち位置で書類を確認しつつ言った。集団の面々は若々しく二十歳くらいだろうが、男は四十を越すだろうか。顔も体もやせ細っている割には背だけ高い。黒い頭髪はすでに減り始めているのが見て取れた。貧乏っぽいという印象を与える男だが、その風貌にはどこか安心感をくれるものがある。
「俺はヴァイ・ミラン。この第一ロゼ二号塔で働いているが、今から君たちの指導役なのでよろしく」
ヴァイと名乗った男は集団の顔ぶれを一人一人見ながら挨拶し、最後はぺこりを頭を下げた。集団の中にもヴァイに釣られて頭を下げる者が数名いた。
「まぁ、まずは国家試験合格おめでとう。君たちはこの国で最も名誉ある仕事に就く権利を得たわけだ」
ヴァイがそう言うと集団の若者たちは鼻が高いような気分になったし、少しだけ気づかれない程度に胸を張った。
「しかし、だ。名誉っていうもんの裏側には必ず『闇』がある。辛かったり悲しかったり、時には死にたくなるだろうな。国家試験までの過程なんざ屁でもねえよ。てめえら、人のために死よりも嫌なこと抱え込むことになるんだわ。そこんところ、了承しとけ」
ヴァイは熱と力のこもった睨みつけるような視線で集まった若者たちを突き刺す。誰もがヴァイの言葉に息を呑み、その視線にこれ以上とない恐怖を抱いた。だが逆に闘志を燃やす者もいる。ヴァイの言葉と視線から何を読み取り、思うかは人それぞれだ。
「んじゃ、着いてこい。二号塔を案内してやる。ああ、ここで諦めたい奴は抜けていいぞ」
きゅっと振りかえったヴァイの背中に、集団が数歩遅れて歩き出した。一人も抜けることなく、静かに男の後ろ姿を追って歩いていく。
ヴァイが正面の扉を両手で開き、扉を固定する。
「ようこそ。地獄へ」
面白そうにヴァイは言い放った。集団のどこにも彼の言葉を馬鹿にする者はおらず、真に受ける。レルヒも何度も唾をごくりと飲み下して、列になった集団の最後尾を歩く。するとすぐ前を歩いていた青年がペースを落として近づいてきた。
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