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「俺、カイユ・ウェイルってんだ、よろしくな! カイユでいいぞ」
派手な色のついたラフな格好の彼は、にいっと笑って名乗り出た。いくらか場違いな気もする格好だったが、他の人たちも、ヴァイも咎めるわけではなかったのでレルヒも何も言わないでいたのだ。
「レルヒ・ラーク。よろしく」
カイユが握手を求めてきたのでレルヒは応じながら名前を言った。その際にカイユの格好をじろじろと見たことにが気づいた。
「俺の格好が気になるか? こんな遊んだ格好でいいのかよって思うだろ。でも自分で着慣れた服装の方が集中力も高まるとかって言って、結構そういう風な人いるってよ」
カイユは弁明するように言ったが、レルヒは何を言われても微妙な顔しかできない。確かに仕事に就いたら個々にスタイルというものが生まれるのだろうが、まだ自分たちは研修医である。先輩方に良い印象を与えることもするべきだ。
「ああ。別に構わねえぞ。服とかは関係ない」
列の先頭にいるはずのヴァイから突然声が上がった。確かに声は大きかったが、ヴァイに聞こえるほどではない。一人ずつ間隔を空けているため集団はかなり広がっているにも関わらず、ヴァイの耳には話の内容まで入っていた。
「別に不思議に思うことじゃないよ。患者に長く関わればこのくらい出来るようになる」
ヴァイは彼らの疑問を察して、全員に知らしめるように言い放った。
扉をくぐると薄明るいエントランスが広がった。手前にはピアノが置かれ、進んだ先にはソファと机が設置されている。向かって左に道が伸びているが、右にも壁の中に通路が伸ばされている。
ヴァイは無言で右の通路に入っていき、彼らは後を着いていった。
右の通路に入ると郵便受けが左手の壁に設置され、曲ればさらに郵便受け用の空間が用意されているようだった。右側に郵便受けはなく、扉が一つあった。
「患者たちの郵便受けだ。そんでこの扉は『管理室』。このロゼの管理を行うっていうことになっているが、実際にここでは何かをするよりも、平常運転しているか観察するためって感じだな。管理人が働いているのもここだから、事務的な用件はここで済ませろ」
管理室には入らず、ヴァイは集団の間を縫って通路を戻る。今度はレルヒとカイユが先頭になってヴァイに着いた。
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