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ヴァイは反対側の道をずっと直進する。右側は完全なガラス張りになっていて、奥は巨大な吹き抜けがある。突き当りには広めな部屋が確保されていて、椅子が小さい庭にいくつも並べられている。奥には動いていない暖炉があって、手前にはソファで四方を囲われた低い机が用意されていた。
「休憩スペース。患者と俺たちが共有できるスペースだ。カウンセリングなんかもここで行う場合がある」
「はぁい、質問なんですけど」
レルヒの背後で声がした。振り返ってみると、寝ぼったい瞼を必死に開けているような目の女性が形式的に手を挙手している。服装はきちんとしているが、長い髪は先端でハネているし指先にはマニキュアをしている。垂れ下がりそうな瞼の端には異常に長いまつげが上に向かってカールしていた。
「なんだ? 」
ヴァイは面倒くさそうに頭を後ろ手で掻きながら振り向いた。
「飲食とかのお店はないんですかぁ? ちっちゃい売店とか」
「ないよ。一号塔にはあるけどな。基本的な食品とかの生活用品は向かいにでっかい建物あるから、そこで調達」
ヴァイの受け答えに女性はつまらなそうに「ふーん」と言って引き下がった。
「で、階段はそこだ」
ヴァイは休憩スペースのすぐ手前にある扉を指さした。
「階段は他にもいくつかある」
淡々と言葉を並べたヴァイは、何も告げずにその扉を開いた。まっ白い階段が上にも下にも伸びている。ヴァイがすっと階段を降りていく。下の階に移動しながらヴァイが振り向かずに説明する。
「地下に患者はいない。地下は俺たち専門医の拠点みたいなもので、ロゼの中枢でもある。そこで患者がいきなり頭おかしくなったらやばいからね」
階段を降りていくと地下についたようで、もう下に伸びる階段はなかった。
「地下は一階までね」
ヴァイが言いながら扉を開き、研修医たちは地下の世界へと足を運んだ。
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